ぼんやりと考えている人

ひろしまなおき (廣島直己)
名前: ひろしまなおき (廣島直己)
住処: シリコンバレー
職業: しがないプログラマ
家族: 愛妻一人、息子一人、娘一人
道具: ハーレー二台、ギター三本
電紙: n at h7a.org

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以前にぼんやりと考えたこと

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30 May '2006 - 23:16 | アメリカ生活 クジは引かなければ当たらない

まあ、そのうち機会があれば書こうかと思ってたことなんだけれど、ちょっとアレなので今まで書かなかったストックオプションの話。

(注:ベンチャー暦の長い知人たちはよく
「ストックオプションって、結局殆どの場合ただの紙だから、それよりキャッシュの給料が大事」
と言ってます。つまり、「ベンチャーは実はなかなか成功しない」という事実が、過去10年で知れ渡ったということではないか、とも思います。)

シリコンバレーの給与とストックオプション

長いかどうかは分からないけれど、おれはアメリカのベンチャーで働き始めて、合計、もうすぐ 9年になる。もっと長い人もたくさんいるだろうけれど、どっちかといえば長い方なんじゃないかなとは思う。よく分からない。アメリカではベンチャーでしか働いたことがない。って、もう 9年か… 2、3年くらいのつもりで渡米したのになあ…


さて、最初のベンチャーは友達と始めた会社だった。いわゆるドットコムバブルの時代というのもあったが、人を雇うときの常套句は「給料は少ないかも知れないけれど、ストックオプションで許して」だった。潤沢な資金があったわけではなかったので、それ以外の選択肢がなかった。

言いながら、いつも、なんてステキな呪文なんだろうって思ってた。だって、ただの紙切れで、やる気みなぎる人たちを騙して馬車馬のように死ぬ気で働かせられるんだから。魔法としかいいようがない。おれも自分を魔法にかけて働いてた。

そして、魔法の呪文に対する答えは、たいていは以下の三つになる。曰く「いいですねえ。」曰く「オプションはいらないから給料をもっと。」曰く「給料をもっと。そしてオプションももっと。」

初心者日本人は最初の答えで、初心者じゃない日本人や中国人やインド人は二番目の答えで、白人は最後の答えってのが典型的なパターンだった。

魔法にかかっている当方としては、「おまえは裸だ」って平気で言うアジア人に対しては、「詰まらない連中だ、おまえらなんかと働きたくないぜ!」ってよく思ったし、「オプションも給料も、もっと出せ」って言いはる白人には、「こんなガメツイ毛唐と働けるか、身の程を知れ!」ってよく思った。

また、出された条件に文句を言わない初心者にも、特にそれが日本人だったりすると、「おいおい、もっと交渉しろよ、損してるぞ。こんな初心者と一緒に仕事しても仕方ないだろうなあ」ってよく思った。

とにかく、ストックオプションという幻想に対する考え方は人それぞれで、肯定的な答えだろうと否定的な答えだろうと、その人を知る手がかりにはなった。

そして、何年か経っておれを大金持ちにする予定だったその会社がいよいよ立ち行かなくなった時、おれはベイエリアにすごすごと逃げてきた。その時、おれは今度は人が作ったベンチャーに後から入ることにしたわけだが、おれの答えは当然ながら三番目の答え、「給料もオプションももっとくれ」だった。安い給料で働く気はさらさらないし、夢がなかったらベンチャーで働く意味がない。まあ、ないってこともないけど、半減以下。

どういう条件で働くかは、自分と会社の交渉次第なのであって、全員が同じ条件などということはまったくない。たとえば、おれと同時期にその会社に入ったヤツには、オプションをまったくもらってないヤツもいるし、だいぶ後に入ったヤツでちゃんとオプションをもらっているヤツもいる。くれといったのにくれなかったって人もいれば、オプションはいらないから給料をもっとくれと要求してそうなった人もいる。オプションやるから正社員になれって会社の誘いを断って、ずっとフリーランスとして働いている人もいる。

で、その会社で現在も働いているのだけれど、入社後、まんまと IPO した。オプションを持っている人と持ってない人では、もう、その手の話はほとんどできなくなった。まあ、できないってことはないけれど、ちょっと気まずい空気が流れるし、一種のタブー系の話題。


賭けなかったら何もおきないのは最初から決まっていることなので、オプションをもらっておくのが正解というのは、ぜんぜん結果論ではない。

確かに IPO 自体は単なる幸運といえばそうだけれど、おれはストックオプションがもらえないという条件のところはどんなに給与の条件がよくてもすべて捨てて今の会社を選んだ。これはタダの偶然とは言わない。ちゃんと賭けたから勝ったわけだ。勝ったのは偶然だけれど、勝てたのは偶然ではないのだ。なんか、かっこいいこと言ったね、おれ。

ま、そんなわけで、日本のプログラマの給与の水準とかを聞くと、なんでシリコンバレーに来ないのかなあと思う。賭ければいいのにと思う。プログラマがクジをもらえる時代にクジを引かないなんて、もったいない。

プログラマとしては、お金よりも面白い仕事の方が大事ってのには基本的に同意するけれど、面白い仕事で給料もよくて一攫千金のチャンスもあるってのが、この時代にプログラマという仕事を偶然にも選んでしまった人に与えられた幸運なんだと思う。そんな仕事がシリコンバレーには転がっている。ゴロゴロかどうかはともかく。

いまのところ今の会社を辞めるつもりはないけれど、もしいつか辞めたとして、次の会社もとうぜんオプションなしの会社は選ばない。もちろん、オプションなんてしょせんは紙切れなのだから、それで給料の水準を下げるという条件はまったく受け入れられない。

いい給料も、ストックオプションも。 これ。

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