25 October '2007 - 20:49 | アメリカ生活, 技術動向 DTV を買うと不幸になる矛盾
デジタルテレビのソフトウェアエンジニアだと言うと、当然、ぼくの家には大型液晶のテレビがあるものだと思われる。でも、我が家にあるのは、10年前に渡米したときに友人からただでもらった、トリニトロン管の 26" の中古テレビだったりする。日本ではとっくに絶滅しているタイプのテレビだ。
もう何年も、毎日、奇麗な大画面テレビを観ながら仕事をしているので、ひどく目が肥えすぎてしまい、自分が納得できるレベルの DTV となるとかなりのハイエンドモデルになってしまって手がでないというも、未だに DTV を買っていない理由の一つだ。
ただ、最近は安くてかなりいい DTV も出てきていて、細かいことを言わなければ、それで十分だな、と思う。職場でテスト用モニタとしても使ってる VISIO の 47" LCD なんて、Costco で $1,500 だって。今すぐ買ってもいい。何を買えばいいか分からない人にも、ブランドものの方が安心できるという無知な人にもオススメ。
が、しかし、実は、ことはそう簡単ではない。
地上波デジタル放送はアンテナさえ買ってくればすぐに観られるけれど、我が家のメインソースは DirecTV なので、まずそっちの契約を HD 契約に切り替える必要がある。まあ、これは注文するだけのことなのでいい。
それから、我が家では DirecTV 専用の TiVo、俗に DirecTiVo と呼ばれている DVR を使っているので、それを HD (MPEG-2) が扱えるバージョンに買い替える必要がある。これはちょっと高いのだけれど、まあ、金で解決することなのでよしとする。
問題は、DirecTV が、HD コンテンツをどんどん H.264 に移行していて、それに対応している DirecTiVo が存在しないということ。そしてもっと問題なのは、DirecTV が、TiVo との契約を解消してしまい、今後も対応 TiVo が出てくる予定がないということ。TiVo という選択肢をユーザから奪うということは、かなり間違った判断だと思うけれど、DirecTV にも TiVo 離れしたい戦略的理由があるのだろう。
つまり、近い将来 DirecTV が約束しているようにすべてのコンテンツが H.264 で(も)提供されるようになっても、TiVo を使っている限りは蚊帳の外ということになってしまうわけだ。すべてのユーザが H.264 対応 STB に移行するまでは MPEG-2 のサポートは止められないから、近い将来、DirecTiVo がまったく使えなくなってしまうということはないだろうけれど、他のユーザがすべてのコンテンツを HD (H.264) で観ているのに、DirecTiVo ユーザだけは特定のチャンネルだけが HD (MPEG-2) で、ほとんどは SD (MPEG-2) なんてことになったら、なんのための DTV かということになってしまう。DTV で観るなら、(昔の番組はともかくとして)すべてのコンテンツを HD (720p/1080i) で観たいに決まっている。大画面 DTV でみる SD ほど哀しいものはない。
というわけで、ここで選択肢がふたつ。TiVo を捨てて DirecTV 純正 DVR を使うか、TiVo のために DirecTV を捨てるか。
TiVo を取るしかない。TiVo 信者としては、いまさらバグだらけで遅い上にぜんぜん使いやすくもない UI のゴミみたいな、どこぞの純正 DVR なんてものは使えない。(TiVo 以外だと MythTV くらいしか話にならないと言ってよい)
このへん(パロアルト)だと、Comcast に変更すれば、TiVo Series 3 が使える(実は DirecTiVo は Series 2)し、最新版だと外付けディスク増設もできる。DirecTiVo ではできないこんなことも(Mac 専用だけど、問題なし。というか、とても好ましい)できるようになる。
というわけで、DTV を買うなら DirecTV とはお別れだな感がかなり漂いつつある。
ただ、Comcast の映像品質が H.264 化された DirecTV に追いつくのはものすごい未来の話だということと、現状の TiVo でサポートしている CableCARD ではオンデマンドとかはできないということなどが、ちょっと気になる。マルチストリーム対応前の CableCARD なので二枚差しってのは諦めるとしても、双方向対応じゃないのはなあ。
ちなみに、なぜ Comcast の映像品質が簡単に DirecTV に追いつけないかというと、すべてのコンテンツを HD にするには帯域が足りないからだ。DirecTV は衛星をあげればまるまる新規に帯域が確保できるし、実際にそうしたわけだが、ケーブルの場合、線をもう一本引くというわけにもいかない。アナログのチャンネルをぜんぶ駆逐しない限り、帯域のすべてをデジタルに使うことはできないわけだ。しかも、オンデマンドや PPV の品質を落とすわけにもいかない。
アナログのチャンネルを駆逐するということは、既存のアナログユーザを全員、デジタルユーザに移行させる必要があり、それには時間も金もかかる。地上波のように、期限を決めて停止するしかないけれど、そのためにユーザに金を払えというのも厳しい。地上波のように、コンバータを $30 くらいで買ってね、くらいでは通らない。アナログ用の STB を回収し、デジタル用 STB と交換するのに、どのくらいかかるか想像もつかないけれど、まだ移行作業は始まっていない。
当分は、SD 以下の最低品質のチャンネル多数+特定の HD チャンネルという構成のままだろうと思う。
結局、DTV を買っても、TiVo を取ったら HD コンテンツは減り、TiVo を捨てたら快適な DVR 生活を諦めることになるということになるというジレンマ。どっちをとっても何かが足りないので、未だに DTV を買えずにすべてアナログという。うーむ。