18 February '2005 - 02:50 | 技術動向 近い将来のデジタルテレビの予定
最近のハイエンドテレビは CableCARDTM 対応のものが増えている。 ハイエンドテレビなぞにはとんと縁のない貧乏なあなたや、そもそもテレビなどという下種の玩具には縁のない高尚な趣味の貴方様のために CableCARD が何をするものかと簡単に説明するならば、それは既存の、各ケーブルテレビ会社ごとに規格の違う受像機、いわゆる STB (Set-Top-Box) を置き換えるもので、CableCARD があればケーブルテレビ会社から STB をレンタルしてテレビに接続しなくともケーブルテレビが視聴可能となる、そんな最新デバイスである。CableCARD だと何が嬉しいのかと言えば、まず、STB のように場所をとらないこと。CableCARD は PCMCIA のカードで、テレビに挿して使う。対応テレビのほとんどは、テレビ裏面の各種入出力ケーブルがあるあたりにひっそりと挿入口ある。一度挿したら挿しっぱなしという使い方が想定されている。また、STB が要らないということは、配線も要らないし、リモコンはテレビのものだけでいいということになる。ユニバーサルリモコンを使えばリモコンはひとつでいいわけだが、テレビと STB の切り替えをしなくてもいいのは便利だし、配線しなくてもいいのはとても嬉しい。
そして、何より一番嬉しいのは、そのレンタル料が安いこと。STB では $5〜$10 くらいする毎月のレンタル代が、CableCARD では $1〜$2 程度。一部の地域では、無料で貸し出しているところもある。
もともと CableCARD は、現時点では S-A と Motorola で完全に独占しているケーブル STB 市場に風穴を開けるために策定された規格なわけだが、CableCARD 方式だと、ケーブルテレビ会社は STB をメンテナンスしなくてもいいわけで、本業であるコンテンツに集中することができる。そもそも STB のレンタルで儲けているわけではないので、ケーブル会社としても嬉しいはず。
つまり、ケーブル会社、カスタマ、双方に大いにメリットがあるということになる。いわゆる Win-Win なのである。
だが、ケーブル会社は CableCARD を宣伝するどころか、それを望むユーザにはすでに配布を始めているという事実すらもなぜか黙っている。新規顧客に、今なら CableCARD という選択肢もあるということを、あえて説明しないようにしている。
Cablevision は、先日、一部の地域で「STB のレンタル代を値上げします」などとカスタマに DM したにも関わらず、「CableCARD は $1.25 のまま値上げしません」とはどこにも書かなかった。また、一部の地域の ComCast は、STB をやめて CableCARD に変更する場合は、CableCARD の初期設定費用として $50 もチャージしていたりする。ただ、PCMCIA のカードを挿して、画面に表示された ID を電話で伝えるだけのことなのにも関わらず。
つまり、明らかに、ケーブル会社はカスタマに CableCARD を使って欲しくはないのだ。できることなら使って欲しくない理由があるわけだ。
それは何か。
などと書いていたら、偶然にもこんなエントリを発見。偶然すぎて困る。
このケーブルカード導入にケーブル放送事業者側は強く抵抗している。ケーブルカード導入後も放送受信料は変わらず入ってくるものの、「ケーブル放送事業者は放送コンテンツを提供するだけ。ダウンロード販売などの新たなビジネスはセットトップボックス側でコントロール」というシナリオが可能になってしまい、主導権が「線」から「箱」へと取られてしまう可能性があるからだ。
On Off and Beyond: アメリカのブロードバンド
On も Off も Beyond も鋭い内容でいつも楽しませてもらっている渡辺千賀のブログであるし、このエントリもとても参考になるのだが、残念ながら上記引用箇所は、最初の行以外は完全に間違っている。
上に書いたように、CableCARD は STB を置き換えるもので、CableCARD 対応のテレビでは STB は要らない。なので「STB側」という記述自体が間違い。DirecTV などのサテライト用の STB が競合他社用の CableCARD 対応する可能性もないので、あるとしたら、TiVo の STB が CableCARD 対応する場合だけだろう。というわけで、言うなら「テレビ側」が正解。
また、内容としては「テレビ側」という意味で書いたと思われるのでそう読み替えたとしても、テレビ側でビジネスをコントロールというのは間違い。テレビは CableCARD から送られてくるコンテンツを表示するだけで、ロジックをコントロールするということはしない。また、近い将来 OCAP という規格に対応したテレビになると、テレビ上で実行されるプログラムも CableCARD を通してダウンロードされたものが実行されるので、結局、ケーブルテレビ会社は何もコントロールを失わない。
一言で言うと、CableCARD に対応したテレビというのは、ケーブルテレビ会社から送られてきたコンテンツを再生し、プログラムを実行する箱になる。ちなみに、プログラムとは、EPG だったり VOD だったり、何でもありの Java プログラム。
じゃあ、なんで、ケーブルテレビ会社は CableCARD を普及させたくないのか。
答えは簡単。
現時点の CableCARD は one-way (ケーブルテレビ会社から家庭への一方向通信) なので、VOD が実現できないし、OCAP 対応ではないので自社特有の EPG も実行できないから。
サテライトには不可能な VOD は、ケーブルとサテライトの差別化の切り札でもあるし、大事な収入源でもあるので、これができない現状の CableCARD なんて、普及されては困る。また、いまさら EPG なしではカッコも付かない。
来年には two-way (双方向通信) で OCAP (テレビ上で双方向通信する Java アプリケーションを動かす規格) 対応のテレビがハイエンドで出始めるけれど、それが出てきたら、ケーブルテレビ会社に躊躇する表向きの理由はなくなる。
来年以降、実際にケーブルテレビ会社が CableCARD の普及の後押しをするかどうかは、いろいろと裏事情も絡んでくるので現時点ではなんとも言えないが、普及して損することは基本的にないはず。テレビで実行するプログラムもケーブル放送事業者側から送られるわけだし、少なくとも主導権が奪われるというようなことはない。
もし誰かが主導権を奪われるのだとしたら、それは、OCAP のような複雑なソフトウェアを自社開発できない日本の CE メーカだろう。ハードウェアにちょっとしたソフトウェアで動かせてきたアナログのテレビと、選局すらも複雑なソフトウェアなしでは実現不能なデジタルテレビの世界では何もかもが違う。CE なら日本のお家芸と気軽に言えない世界に突入する。つまり、テレビの実装がハード重視からソフト重視の世界になる。
というわけで、デジタルテレビのソフトウェアをプログラムしていますので、今後ともよろしくお願いします。何を。
chika () - 16 February '2005 - 10:14
ひろしま - 16 February '2005 - 18:22
chika () - 16 February '2005 - 22:53
ひろしま - 18 February '2005 - 02:50